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稼働率を上げると、ケアの質は下がるのか — 通所介護のジレンマを“段取り”で解く

通所介護で稼働率と質がトレードオフになる構造を「増えた負荷が特定の時間に集中する」ことから解説。両立の鍵は段取りを回す仕組みであり、それが介護に特化していなければ効かない理由を示す。

稼働率を上げると、ケアの質は下がるのか — 通所介護のジレンマを"段取り"で解く

対象読者: 稼働率を上げたいが、現場の余裕やケアの質とのバランスに悩む通所介護(デイサービス)の経営者・管理者 この記事で分かること: 稼働率と満足度がトレードオフになってしまう構造、両立の鍵が根性ではなく"段取り(設計)"にあること、送迎・シフト・記録の設計でどこを変えると効くか 読了目安: 6分


「稼働率を上げろ」と「質を落とすな」は、同時に来る

通所介護の経営で、稼働率は避けて通れない。定員に対して利用がどれだけ埋まっているかは、そのまま収益に直結する。だから「もっと埋めよう」という圧力は、経営として当然のものだ。

一方で現場からは、別の声が上がる。「これ以上詰め込むと、一人ひとりを見きれない」。稼働率を上げろという経営と、質を落とすなという現場。この二つは、たいてい同時にやってくる。そして、放っておくとぶつかる。

トレードオフの正体は、「増えた負荷が特定の時間に集中する」こと

稼働率を上げると、なぜ質が下がると感じるのか。利用者が増えれば、その分の送迎が増え、入浴の順番が詰まり、記録の量が増え、見守るべき人数が増える。しかも、これらは一日の中の特定の時間帯——朝夕の送迎、午前の入浴、食事の前後——に集中する。

つまり、稼働率を上げたときに増える負荷は、薄く均等に広がるのではなく、もともと忙しい時間にさらに乗ってくる。人員は変わらないまま利用者だけ増えれば、そのピークで現場が破綻する。ヒヤリハットが増え、一人あたりに向ける時間が削られ、利用者の満足度が下がる。

そして満足度が下がれば、当日キャンセルや利用回数の減少につながり、結局は稼働率も落ちる。「稼働を上げたはずが、質が落ちて稼働も落ちる」。このループが、通所介護のジレンマの正体だ。

だから、両立は「もっと頑張る」ではなく"段取り"の問題

ここで多くの現場が、気合いと人海戦術で乗り切ろうとする。だが、増えた負荷が特定の時間に集中しているのだから、効くのは「もっと頑張る」ではなく、その集中をどうならすか——つまり段取り(設計)だ。稼働率と質の両立は、精神論ではなく設計の問題として捉え直すと、手を打つ場所が見えてくる。

具体的には、負荷が集中する三つの場所を設計で軽くする。

  • 送迎: 利用者が増えて最初に膨らむのが送迎の拘束時間だ。誰をどの車で、どの順に、何時に。この組み合わせを最適化できれば、同じ人数でも送迎に奪われる時間を圧縮できる。ここが詰まると、日中のケアに人を回せない。
  • シフト: 負荷はピークに集中する。入浴・送迎・食事の時間帯に人を厚く、落ち着いた時間に記録や事務を寄せる。全時間帯を均一に配置すると、ピークで足りず、閑散時間に余る。
  • 記録: 記録の二度手間は、そのまま利用者に向ける時間を奪う。バイタルやその日の様子を一度入力したら、連絡帳にもモニタリングにも使い回せるようにする。記録を削るのではなく、重複をなくす。

この三つを設計で軽くすると、稼働率を上げても現場のピークが破綻しにくくなる。増やすべきは気合いではなく、負荷をならす仕組みだ。

段取りをつけるにも、段取りを回す"仕組み"が要る

ここで一つ問題がある。段取りが答えだと分かっても、それを手作業で回していては、段取り自体が新たな負荷になることだ。送迎表を毎朝手で組み、シフトを勘で調整し、記録を書類ごとに書き写す。段取りを軽くするための作業が、かえって現場を重くする。これでは本末転倒だ。

つまり、稼働率と質を両立させる段取りは、人の頑張りに任せるのではなく、それを回す"仕組み"に載せる必要がある。段取りの重要性に気づいた事業所ほど、次にぶつかるのは「その段取りを誰が・どう回し続けるのか」という問題になる。

その仕組みは、介護に特化していないと効かない

では、汎用のスケジュール管理ツールや業務システムを入れればいいのかというと、そうはいかない。通所介護の段取りは、介護に固有の制約でできているからだ。

送迎ルートは、単なる配送の最適化ではなく、乗車できる時間・車椅子の有無・その日の体調で決まる。シフトのピークは、入浴・機能訓練・送迎という介護特有の業務で立つ。記録は、連絡帳やモニタリングという介護保険の帳票に紐づいている。汎用の仕組みはこれらの前提を知らないので、結局は「介護のやり方に合わせる作業」が人手で残ってしまう。仕組みを入れたのに、そこに合わせる手作業が新しく生まれる——これでは段取りは軽くならない。

だから、効くのは介護に特化して設計された仕組みだけだ。介護の前提を最初から抱えていれば、予定者と車両を入れれば送迎表がその制約のまま自動で組め、一度入力した記録は連絡帳やモニタリングに使い回せる。段取りにかかっていた時間そのものを減らし、空いた時間を利用者に向けられる。

CARESPACEはBuy First, Build Laterの方針で、LINE(デイケア)を10年以上運営してきた。デイの現場を回して分かったのは、稼働率と質がぶつかるのは現場の努力不足のせいではなく、負荷が特定の時間に集中する構造のせいであり、それをならす段取りは介護に特化した仕組みでしか軽くならない、ということだった。だから私たちは、根性で埋める機能ではなく、送迎・シフト・記録の段取りそのものを軽くする設計を優先している。

この記事が向く事業者、向かない事業者

稼働率を上げたいのに現場から悲鳴が上がる、あるいは稼働を上げたら質が落ちて逆に利用が減った——そんな経験がある通所介護には、"段取り"に切り込む発想が効く。まず、自分たちの負荷が一日のどの時間に集中しているかを書き出してみるだけでも、手を打つ場所が変わる。

一方、定員に対してまだ余裕が大きく、ピークでも現場に余力がある事業所は、いま無理に段取りを作り込む必要はない。その段階では、稼働率そのものより、一件ごとのケアの深さや利用者との関係づくりに時間を使うほうが効いてくる。

稼働率と質は、放っておけばトレードオフになる。だが、それは避けられない宿命ではなく、負荷の集中を"段取り"でならせるかどうかの設計の問題だ。そして、その段取りを回すには仕組みが要り、その仕組みは介護に特化していなければ効かない。埋めることと、見きること。この二つは、介護の前提を抱えた仕組みの上で、はじめて両立できる。

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