厚生労働省の推計では、介護職員の必要数は2022年度の約215万人から、2040年度には約272万人になります。差は約57万人です。
これは「2040年にケアマネが57万人不足する」という意味ではありません。介護サービス事業所などで働く介護職員全体について、2022年度と比較して新たに確保する必要がある人数です。
それでも、介護業界全体が「人を採用する」だけでは追いつきにくい状況にあることは変わりません。処遇改善、人材育成、定着、外国人材の受け入れと同時に、今いる職員が専門職として判断すべき仕事へ時間を使える状態をつくる必要があります。
ここで気をつけたいのが、「生産性を上げる」という言葉です。
この言葉が抽象的なままだと、現場には「今までより速く書く」「もっと多く担当する」という要求として返ってきます。居宅介護支援事業所で先に見直したいのは、ケアマネジャーの判断速度ではありません。同じ利用者情報を、別の画面や帳票へ何度も入れ直している構造です。
居宅の仕事は、一枚の帳票では終わらない
新しい相談を受けると、利用者の基本情報、家族の意向、健康状態、生活状況、介護上の課題などを確認します。
その情報は、相談メモだけに残るわけではありません。
- 利用者基本情報
- アセスメント
- 課題整理総括表
- 居宅サービス計画書第1表
- 居宅サービス計画書第2表
- 居宅サービス計画書第3表
- 事業所内のケースファイル
へ形を変えながらつながっていきます。
ここで必要なのは、すべてを自動作成することではありません。すでに確認済みの事実は引き継ぎ、ケアマネジャーが判断すべき部分だけを確認・編集することです。
先に減らしたい5つの再入力
1. 氏名・生年月日・住所などの基本情報
利用者マスターに登録済みの情報を、帳票ごとに再入力していないでしょうか。
氏名、生年月日、住所、作成者、事業所名などは、ケアマネジャーの専門的判断ではありません。一度正しく登録し、必要な帳票へ反映する設計が向いています。
2. 要介護状態区分・認定期間などの認定情報
要介護状態区分、認定の有効期間、初回・更新・区分変更といった情報も、複数の帳票へ登場します。
転記で数字や日付を間違えると、後から確認と修正が発生します。正本となる場所を一つ決め、帳票では参照する方が安全です。
3. 相談時に聞いた健康状態・生活状況
初回相談で聞いた内容を、アセスメントの際に最初から聞き直したり、メモを見ながら再入力したりする場面があります。
ここは「自動確定」ではなく、「相談時にこう伺っています。現在も変わりませんか」と確認する形が合います。事実を引き継ぎながら、状態変化を確認できるからです。
4. アセスメント結果から課題整理への写し替え
アセスメントで把握した情報は、課題整理総括表へつながります。ただし、すべての項目をそのまま移せばよいわけではありません。
AIやシステムは、関連する情報を集め、下書きを提示するところまで。優先する課題や自立を阻害している要因の判断は、ケアマネジャーが根拠を確認して決めます。
5. 課題・ニーズ・サービス内容のケアプラン間連携
課題整理の結果は、第2表のニーズ、長期・短期目標、サービス内容へつながります。さらに第3表では、サービス内容を週間予定へ落とします。
同じ言葉を再入力するのではなく、前段階で決めた内容を参照しながら、次の帳票に必要な判断を加える。この流れをつくると、入力作業と専門職の判断を分けられます。
自動化してよいもの、確認が必要なもの、任せてはいけないもの
介護業務の効率化で怖いのは、転記を減らすことと、判断を省くことが混同されることです。
三つに分けると整理できます。
自動反映に向いているもの
- 氏名、生年月日、住所
- 事業所名、担当者名
- 認定情報
- すでに確定した日付やコード
AIが下書きし、人が確認するもの
- 相談メモからの事実抽出
- アセスメント項目への整理
- 課題候補の提示
- ケアプラン文章の原案
人が決めるもの
- 本人と家族の意向をどう捉えるか
- どの課題を優先するか
- 目標が本人らしい生活につながるか
- どのサービスを、なぜ位置づけるか
- 原案を正式な計画として確定するか
AIで文章が早く作れても、根拠のない内容まで自然に書かれてしまえば、確認負担はむしろ増えます。「入力を減らす」と「判断をなくす」は別です。
CareSpace OSで実装している考え方
CareSpace OSでは、アセスメントから課題整理総括表、ケアプラン第2表、第3表、第1表のPDF出力までを一つの流れとして実装しています。
課題整理総括表とケアプランは、AIが原案を生成し、ケアマネジャーが編集・確認して保存する設計です。作成した帳票はPDFとして出力できます。
大切にしているのは、「AIがケアプランを決める」ことではありません。
- すでにある情報を探し直さない
- 同じ事実を何度も入力しない
- 前の工程で決めた内容を次へ引き継ぐ
- AIの提案と、ケアマネジャーの確定を分ける
- 最終的な根拠を人が確認できる
という業務の流れです。
CareSpace OSは、自社の介護現場で使い、外部の介護事業者にも提供しながら改善しています。ただし、本稿では「何分削減できた」といった未確認の数字は置きません。次に必要なのは、導入前後で、再入力回数、作成時間、修正回数がどう変わったかを同じ条件で測ることです。
明日確認できる7項目
まず一人の利用者について、初回相談からケアプラン完成までを追ってみてください。
- 氏名を2回以上入力していないか
- 生年月日・住所を帳票ごとに入力していないか
- 要介護度・認定期間の正本が複数ないか
- 相談時に聞いたことを、アセスメントで最初から聞き直していないか
- アセスメントを見ながら、課題整理総括表へ文章を写していないか
- 第2表で決めた内容を、第3表へ再入力していないか
- AIやシステムの提案を、誰がどの画面で確定するか決まっているか
七つすべてを一度に変える必要はありません。最も頻度が高く、判断を伴わない再入力から一つ減らします。
人を増やす議論と、仕事を整える議論を同時に進める
介護人材の確保は必要です。処遇改善も、採用も、育成も欠かせません。
同時に、採用した人へ、これまでと同じ再入力や確認待ちを引き継ぐだけでは、現場の余裕は戻りません。
居宅介護支援事業所の生産性向上は、ケアマネジャーへ「もっと速く」と求めることではないはずです。
同じ事実を何度も書く時間を減らし、本人の意向を聞き、課題を考え、関係者と調整する時間へ戻す。そのために、まず一人分の情報が、相談からケアプランまで何回入力されているかを数えるところから始められます。
一人分の再入力を、一緒に整理する
CareSpaceでは、現場の業務を見ながら、どこで同じ情報を入力しているか、どこに人の判断を残すかを整理しています。システムを入れる前の業務整理からご相談いただけます。
出典・注記
- 厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」:2022年度約215万人、2026年度約240万人、2040年度約272万人。2040年度は2022年度比で約57万人を新たに確保する必要があるとの推計。
- 厚生労働省「介護分野における『生産性向上』とは?」:介護記録・情報共有・請求事務の一気通貫、ICTによる転記削減や情報共有のタイムラグ解消に言及。
- 本稿に記載したCareSpace OSの実装範囲は、2026年8月25日時点の社内実装記録に基づく。
