前回は、介護システムの定着を「ログイン回数」だけで判断せず、仕事の流れが実際に変わったかを見る必要があることを書きました。
では、業務が改善したかどうかを、具体的にどのように確かめればよいのでしょうか。
現場から「便利になった」という声が出ても、残業は減っていない。入力時間は短くなっても、その後の確認が増えている。管理者の作業は減っても、現場職員の負担が増えている。
一部分だけを見ると、改善したように見えることがあります。
介護DXの効果を正しく確認するには、導入後の数字だけではなく、導入前の状態を残しておくことが重要です。そして、機能単体ではなく、その前後を含む仕事全体を見ます。
この記事では、介護システムやAIを活用した業務改善の前後で確認したい8つの指標と、無理なく測定を続ける方法を紹介します。
効果測定は、導入後ではなく導入前から始まる
新しいシステムを入れたあとに「どれくらい良くなったか」を知ろうとしても、以前の状態を記録していなければ比較できません。
正確な調査を長期間行う必要はありません。まずは一週間だけでも、対象業務について次の内容を残します。
- 誰が行っているか
- 一回あたり何分かかるか
- 一日に何回発生するか
- どこから情報を集めるか
- 入力後に誰が確認するか
- やり直しや転記が何回あるか
- 終わらない場合、いつ行っているか
大切なのは、細かい数字を完璧に集めることではありません。
改善前と改善後を、同じ基準で比べられる状態をつくることです。
1|記録にかかる時間
最初に確認しやすいのは、記録時間です。
ただし、「システムへ入力している時間」だけを測ると、実際の負担を見誤ります。
記録するためにメモを探す。別の職員へ確認する。紙から転記する。入力後に文章を整える。上司が不足項目を確認し、本人が修正する。
これらを含め、情報を集め始めてから記録が完了するまでを測ります。
例えば、一件15分の作業が10件あれば一日150分です。月20日なら50時間になります。一件あたり数分の差でも、月単位で見ると改善の大きさが分かります。
2|同じ情報を入力する回数
介護現場では、一度記録した内容を別の書類へ写す作業が多く発生します。
- 申し送りから支援経過へ転記する
- バイタルデータを報告書へ写す
- FAXの内容を利用者記録へ入力する
- 実績を別の管理表へ入力する
- 会議で使うために同じ数字を集計し直す
一つの入力画面が速くなっても、転記が残っていれば、業務全体の削減効果は限定的です。
「同じ情報を何回書いたか」を数えると、機能同士を連携すべき場所が見えてきます。
3|情報を探す時間
記録時間として表れにくいのが、情報を探す時間です。
必要な書類がどこにあるか分からない。最新版を判断できない。チャットをさかのぼる。担当者の机や個人フォルダを確認する。別拠点へ電話する。
一回数分でも、職員全体で毎日繰り返されれば大きな時間になります。
測定するときは、検索にかかった分数だけでなく、何を探したかも残します。同じ種類の情報を繰り返し探しているなら、保存場所や表示方法を見直す対象です。
4|確認や質問の回数
「管理者に聞かないと分からない」という状態は、管理者の時間を細かく分断します。
質問への回答は数分でも、作業を止め、状況を聞き、判断し、元の仕事へ戻るまでにはさらに時間がかかります。
次のような回数を一週間だけ記録します。
- 操作方法について聞かれた回数
- 書類の場所を聞かれた回数
- 判断基準を確認された回数
- 担当者不在時に本人へ連絡した回数
- 同じ質問が繰り返された回数
質問をなくすことが目的ではありません。
人が考えるべき相談と、情報があれば自己解決できる確認を分けることが目的です。
5|修正や差し戻しの回数
入力を速くしても、修正が増えれば効果は相殺されます。
AIによる下書きも同じです。作成時間が短くなっても、参照情報が分からず確認に時間がかかる。内容の抜けを探す。自然な文章だが事実と異なる箇所を直す。
確認したいのは、下書きをつくる時間だけではありません。
- 完了までに何回修正したか
- 誰が確認したか
- 修正理由は何だったか
- 同じ誤りが繰り返されていないか
AIを使う場合は、作成速度と確認負担を合わせて評価します。
6|残業時間と、その理由
残業時間の合計だけでは、どの改善が効果を生んだか分かりません。
月末の請求処理、記録のまとめ入力、会議資料の作成、未確認事項への対応、職員が少ない時間帯の穴埋めなど、理由を分けて記録します。
例えば、記録の残業は減ったが、確認作業の残業が増えているなら、仕事が別の人へ移っただけかもしれません。
時間と理由をセットで見ることで、「誰の、どの仕事が減ったか」を確認できます。
7|担当者が休んだときに発生する対応
システムや情報共有の効果は、担当者が不在の日に表れます。
- 本人へ電話やメッセージを送った回数
- 必要な経過を確認できなかった件数
- 対応を翌日へ持ち越した件数
- 他の職員が判断できず管理者へ集まった件数
- 書類や連絡先を探した時間
これらが減れば、情報が個人の記憶からチームのものへ変わっている可能性があります。
反対に、入力件数が増えても不在時の連絡が減らない場合は、必要な情報の置き場所や、経緯の見せ方を見直す必要があります。
8|生まれた時間を何に使えたか
業務改善の目的は、作業時間を減らすことだけではありません。
生まれた時間を、何に使えるようになったかまで確認します。
- 利用者さんの話を落ち着いて聴けた
- 家族への説明時間を確保できた
- 職員同士でケースを相談できた
- 管理者が採用や育成に時間を使えた
- 未然にリスクへ気づけた
- 新しい地域連携へ動けた
削減した時間が、別の単純作業で埋まっていないか。現場や経営にとって大切な仕事へ戻せたか。
ここまで見て、業務改善の価値を判断します。
測定項目を増やしすぎない
効果を正しく見ようとして、現場へ新しい集計作業を増やしてしまうことがあります。
測定のために仕事が増えては続きません。
最初は、改善したい課題に近い指標を三つ程度に絞ります。
例えば、記録業務を改善するなら、記録完了までの時間、転記回数、差し戻し回数。情報共有を改善するなら、情報を探す時間、担当者不在時の連絡回数、管理者への確認回数。
一週間測り、小さく変更し、同じ項目をもう一度測る。
効果が確認できれば続け、別の負担が増えたなら修正する。期待した変化がなければ、原因の見立てを変えます。
CareSpaceOSは、業務の前後をつないで改善する
CareSpaceOSは、個別の入力作業を速くするだけではなく、情報が次の仕事へつながる状態を目指しています。
トークルームで共有した内容を支援経過へつなぐ。受信した複数の書類をAIが解析し、対象利用者のケースファイルへ振り分ける。入力したバイタルデータをグラフ化し、報告書作成へつなぐ。
同じ情報を何度も書かない。担当者が休んでも経緯を追える。管理者だけに確認が集まらない。
機能を導入したことではなく、現場の何が変わったかを確認しながら改善を続けます。
何を測ればよいか分からない、改善したい業務が多く優先順位を決められないという段階でも問題ありません。現在の仕事を整理し、最初に試す一つを一緒に決めます。

